大屋根とロフトのある家「神大寺の家」

神大寺の家設計解説2020/5/15

先月にお引渡しとなった『神大寺の家』では新コロナ騒動のためオープンハウスの開催は自粛させて頂きましたので、その代わり設計内容の説明をここでしてみたいと思います。

敷地は横浜市内で建て主さんのご実家の広い敷地内の一角。お屋敷といっても良い、風格のある母屋の玄関先に位置します。

 

特に母屋との境の塀もなく敷地面積もたっぷり広いので建築確認申請上の敷地境界線の設定が難しいのですが、既存擁壁を介して接する道路からのセットバックを求められないように、確認検査機関との事前協議にて設定したラインで、かつ準防火地域の延焼の恐れある範囲の制限を極力受けないようなラインを慎重に決めました。このことによって膨大な工事費を要する既存擁壁の築造替えを行う必要がなくなり、1階のLDなどメインファサードの開口部には防火戸ではない木製窓を設けることができています。確認検査機関との事前協議にはやはり数々の交渉をこなしてきたそれなりの経験が役立ちます(笑)。以前にあるハウスメーカーにこの計画を建て主さんが相談された際には既存擁壁を築造替えしないと建築が出来ないと言われたそうです。

建て主さんの希望として大屋根を葺き下ろした輸入住宅のイメージ写真などを見せて頂いて、2階には勾配天井をそのまま活かした寝室やファミリールームを設けたいというご要望があり、それがこの家の大きな特徴となっています。外壁は杉の下見板張で当初ブルーグレーなどのステイン塗装の案もありましたが、最終的には私の自邸と同じウッドロングエコ塗装の下見板となりました。玄関やLDの大窓は南側に面していて、LDの窓は4本引きの木製掃き出し窓、玄関ドアは建て主さん自らが隣の工房で製作したスチールドアです。建て主さんの本業は自動車やバイクの板金及び塗装なのですがこれくらい作るのはたやすいようです。

玄関を開けると建物を南北に貫通する通り土間。その両面に同じスチールドアが設置されていますが、手前の玄関側は延焼の恐れある範囲をまぬかれているので普通ガラス、奥の勝手口は燃焼線内なので網入りガラス代替の耐熱ガラスがはまっています。腰から下のチェリー突板は鉄板に内張したものです。

床タイル張の通り土間を入って左がガラス戸で仕切られたLDK、右が離れ的な四畳半の和室、和室の奥にはシューズクロークもあります。

和室が欲しいと要望される方もなかなか少ないのですが、和室がある家は贅沢ですね。単純にうらやましいです。

LDの床は建て主さん指定のバーチ材のヘリンボーンフローリング。壁と天井は家中全てAEP塗装(少しアイボリー)で仕上げています。

明るい木製4本引き違い戸の上には間接照明。スイッチ類は全てUSA製のものとしていてLED照明に対応できる調光スイッチがないということで、調光が必要な照明はBluetoothリモコンにて調光可能な機種を選んでいます。

キッチンは壁で隠して見せないレイアウト。生活感がリビングまであふれ出てこず料理の音や匂いも防げるので優れていると思うのですが、これを認めてくれる奥様はかなりレアです。一人孤独に料理するのがさびしい、小さい子供と会話したりTVを見ながら料理したいという人には向いてなくて、料理に集中したい方向けです。

キッチンはチェリー材を張った造作家具にて製作しています。コンロ廻りにはサブウェイタイルを変則張りしました(USA製の本物です)。

キッチンには北側の庭を望む出窓もあって暗い感じはしません。キッチンカウンターはクオーツ系の人造大理石を使っています。ミーレの120周年記念モデルの食洗器と業務用っぽいデザインで根強い人気のガスコンロ。

行き止まりでなくキッチンを通り抜ける動線があるので閉塞感も感じません。

ほぼフラットにLDとつながるウッドデッキの奥行きは約1.8m。軒の出がたっぷりあって冬季の日射の取入れや、雨の日に窓を開けておくにもちょうどよいはずです。天井には取り外し可能な物干金物の受け金具が設置されています。小さい引戸は階段下収納の戸で上部1点の金具だけで支えています。

洗面所と浴室は1坪ずつでコンパクトに納めています。洗面カウンターもクオーツ系人造大理石カウンターとサブウェイタイル張。

浴室は久々に設計した在来工法のタイル張浴室。浴槽は大和重工の鋳物ホーロー製。天井はレッドシダーです。

階段を上がった2階のトイレにもサブウェイタイル。1階にもトイレはありますが新コロナの影響で便器の納入が間に合わず、後日設置の予定となっています。

天井が低い2階シアタールーム。2階の床はバーチ材をボーダー間隔が等ピッチでない変則的な朝鮮張りとしました。朝鮮張りとされることを想定していない乱尺(長さ606,909,1213,1818混在)長さのフローリングがもっとも無駄なくそのまま使えるような張り方を考えて割り付けたものです。天井には開閉できる手動天窓を2連で設置。

シアタールームなので床に座ってTVを見ながらくつろげるように、背後の収納はプロジェクターを置く想定もしています。正面はパソコンなど置けるワークスペース。


シアタールームに面して小さな子供二人のための子供部屋スペース。将来2部屋に仕切れるようにしています。

奥の主寝室には奥様用のドレッサーコーナー。南向きで格子入りの木製窓のある明るい空間。

天井が高く切妻屋根の天井が左右対称な主寝室。天井は屋根下地のラーチ合板そのままです。

主寝室内のウォークインクローゼット。特注のクロームメッキのワイヤーバスケットを大量に設置しています。我が家で使ったIKEAの似たようなバスケットと比べると高級感が雲泥の差ですね。

フローリングや人造大理石、サブウェイタイル、スチールドアや白ペンキ塗の框ドア、USA製スイッチなど、建て主さんの趣味嗜好、御要望が存分に反映された家となりました。