バリアフリーと展望室「小田原の家」

小田原の家設計解説2017/9/7

2014年に完成した「小田原の家」は住宅プロデュース会社OZONEの3者コンペにて選ばれた案ほぼそのまま完成しました。敷地は小田原市の海側ですが行き止まり道路の最奥の住宅密集地にあり廻りの家に取り囲まれている状況です。この計画の御要望はかなり特殊です。建て主は東京に暮らしていますがこの家に住むのは建て主の高齢になるお母さん一人。この計画地の隣にある実家がかなり老朽化したこともあってかなり前から入手されていた隣接地に母のためのバリアフリーな家を建ててあげたいということでした。

お母さんの要望はあまりなかったのですが、建て主(息子さん)の要望はこの土地からでも昔は箱根の山が良く見えたと母から聞いていてその箱根の山を何とかこの家から見せて上げたいということ、母の足があまり良くないのでバリアフリーな家とすること、たまに実家に帰る際に建て主自身も泊まれる部屋が欲しいということで、この密集した土地からどうやって箱根の山を見せてかつバリアフリーな家とするかという難問にとり向かうこととなりました。

提案したのは動線が短かい平屋部分で高齢の母の普段の生活が完結する間取りにホームエレベーターにて最低限の広さの展望室を3階に設けた案。隣家の屋根越しに箱根の山を眺められるように3階の床は可能な限り高く設定してあるので間をつなぐ2階部分には天井が高い書斎と仏間を設けています。土地自体は十分に広く既存の庭木も出来るだけ残していて、1階のLDには縁側と北側の水廻りにも大きな掃き出し窓を連続させました。外壁はメンテナンス性とローコストを両立させるためガルバリウム鋼板の小波板仕上。


母の寝室と水廻り、LDをつなぐ動線はコンパクトにまとめ、車椅子の想定もして廊下は広くして水廻りも介護しやすい広さとし、玄関前にはスロープも設けています。2階以上は階段を使うことはほとんどないと割り切って階段もかなり急勾配の階段として小さくまとめました。また玄関ドアも含め扉は全て引き戸としています。

2階に設けた書斎は天井高さ3m。出版関係のお仕事にたずさわる建て主の蔵書を収納するための大きな書棚を設けています。御要望により2階の書斎と、エレベーターホールに設けた仏間は床壁天井とも全て黒い内装で仕上げています。窓の一部にはこの土地に建っていた既存の建物から再利用した富士山の模様入りのガラス障子をはめ込んでいます。

暗い部屋としたいということで窓もあまり多く設けていないのですが縦長の窓にはステンドグラスをはめ込みました。

2階のエレベーターホールは大きな仏壇を置いて仏間に。天井高さ3mを活かして長押の上の壁には先祖代々の顔写真が飾られる想定です。

3階の展望室から見る箱根山の眺め。ガラスはビル用のアルミサッシによるはめ殺し窓+縦すべり出し窓。準防火地域で窓に網入りガラスが必要となる地域ですがビル用サッシ+防火ガラスとすることで網を無くし眺望を邪魔しないようにしています。この展望室は建て主が週末などに帰ってきた際の寝室にもなります。

3階にはルーフテラスも設けていてほんの少しだけですが海も見えます。さらに屋上に登れるように梯子を架けるためのタラップも設置。

特殊な要件を与えて頂いたおかげか、いわゆる地味な高齢者用のバリアフリーな平屋とはならずに展望室のタワー、真っ暗な書斎という階ごとにとても空間的なメリハリが効いた建物となったと思います。