ひな壇状に積層したコンクリート打放し住宅「秋谷・海の家」

秋谷・海の家設計解説2021/11/10

2011年に完成した『秋谷・海の家』。海を見て過ごす週末住宅のための土地を探していた建て主さんが見つけた土地は、海沿いを走る国道134号線に面し、ひな壇状に造成された敷地でした。海側の道路レベルに駐車スペースを残して宅地の地盤は道路より3mほどの高さと、その奥にさらに2mほどの高さの2段にひな壇状に造成されたという変わった敷地。元は2宅地として造成されたものだったようです。敷地の北側には奥の山へと登っていく階段上の道路があってこの階段が上部宅地レベルへのアクセスとなっています。

この敷地の海への眺望の良さを最大限に活かすために考えたのは、ひな壇状の敷地断面をそのまま建物もひな壇状にセットバックさせ、全ての部屋から海がきれいに望めかつ海側にテラスが各階に付属するような断面構成でした。

3階建て(法規的には2階建て)の最上階をLDKとして下の階に寝室とピアノ室を設けることにしましたが、ここで気を使ったのが背後の敷地にすでに建っていた大開口の家の景色をなるべく阻害しないことと、海の眺めの妨げとなっている道路上の電線がなるべく見えないように高さを決めることでした。計画の初期には背後のお隣の家を訪問して設計の説明をし、建物の高さを必要以上に高くしないことと、あまり大きな壁面とならないように分節した建物として海への抜けを確保することを説明に伺いました。


3層の建物を積層するのと同時に少しずつ左右にずらして空隙を設けることで、240平米近くある建物があまり大きく見えないこと、海上から見た山の斜面の景色に対して圧迫感を与えないことを配慮しています。

建物の玄関は階段状の道路を最上部の宅地レベルまで上がった位置に設けました。週末住宅なので玄関はあまり住宅っぽさを見せないように木製の防犯縦格子戸(片引き可能)と一体化させていて、この格子戸の一部が片開きとなっていてその中に玄関ポーチが隠れています。

この家で唯一海の見えないうす暗い空間となった玄関土間は、開口の少ない長い空間であることを活かしてギャラリー的な空間として利用。

木製格子戸が外に入ったくもりガラスは実は上部に行くほど粒が大きくなて透明性が高くなるというエッチング装飾を施したガラスで、海中から空を見上げた時の様子を再現したものです。(多分設計した私しか気づいてないかもしれないのですが)

玄関はスペースをたっぷりと使った船着き場のような形状で、土足のまま山側の広い倉庫や勝手口へとアクセスできます。内壁は断熱の必要のない箇所はコクリート打ち放し、それ以外はペンキ仕上げです。床はチークフローリング。

玄関レベルから半階下がった位置には主寝室と書斎。

主寝室のすぐ近くに海を望む浴室と洗面。

最下階には子供部屋とゲストルーム。こちらにもテラスが付属しています。

階段を下りきった先にはピアノ室。

この位置からだと富士山も望める角度なのでコーナー窓を設けています。

玄関から光に導かれるように上階へ上がれば、

海への眺望が開けます。天井高さは3.3m。窓の高さは2.7m。床は白い大理石張。椅子に座れば目障りな電線がぎりぎり見えない高さとなります。

眺望を邪魔しないように方立ての幅の小さいアルミサッシを使って、窓の中間に必要な柱もスチールで細くして視線を妨げないようにしています。

LDKに付属するテラスは先端に浅い水盤を設け目障りな手摺を省略しました。水盤は海とつながって見えるように青いモザイクタイル張。水中照明も装備しています。水盤の水面の高さとデッキ材の高さが揃うようにちょっと特殊なディテールを採用しています。

完成を急ぎたいということもあり非常に短期間で設計した建物ですが、ほぼお任せのファーストプランが採用されました。シンプルなコンクリート打ち放しの家ですが、海の見え方をどのようにするか、週末住宅としての非日常的な空間とは、海上や周辺から見たときに威圧感のある建物としたくないなど、、設計者の私の思いが各所にちりばめることができたと思います。