海の景色とともにある家「海のパノラマ・葉山」

海のパノラマ・葉山設計解説2021/11/9

2006年に完成した『海のパノラマ・葉山』。その後葉山や逗子、鎌倉など海の見える眺望の良い家をいくつか設計させて頂くきっかけとなった家であり、葉山で数軒の設計を行ううちにこの町を気に入って移住するきかっけともなった仕事でした。

建て主さんは当時からこの地域に居住中で、数年かけて海の良く見える土地を探していた御夫婦。リタイア後の夫婦お二人が定住する住まいであり、週末には子供たちの家族が遊びに来れるような家ということで計画が始まりました。

敷地は海を西側に見下ろす高台でひな壇上に造成された土地で、道路よりも宅地レベルが2~3mほど低い土地でした。海への眺望は抜群で富士山も良く見えるロケーションです。眺望に関しては1点だけ心配事があって海のある西側隣地には大きな病院があってその当時では眺望に影響するような高さの建物ではなかったものの、今後増築の計画があるらしいという話でした。そこで設計条件としては、今後もし病院が高い建物を増築したとしても眺望に影響がないような家としたいということになりました。

そこで建物のメインフロアとなる居間をできるだけ高い位置に設けようと計画することになりましたが、一般的な2階建ての2階に設けるのでは視界の高さ的に不安が残るということで数案検討するうちにひとつ良い方法があることに気づきます。敷地の用途地域は第1種低層住宅専用地域、建ペイ率40%、容積率80%の制限のある地域なので普通なら2階建てしか建たない敷地なのですが3階建てが果たして可能か検討してみることに。それも最上階の3階に広い居間を設ける方法という難題です。

3階建てとすることで制約を受ける日影規制をクリアしつつ広い3階フロアを生み出す方法として考え付いたのは、建物は日影規制的に有利となる北側をスレンダーとする塔状の形状とし、3階の床面積を優先して、1,2階の床面積を小さくするために、2階の接道フロアを広いポーチ兼駐車スペースとしてオーバーハングさせつつ、1階客間を2層吹き抜けとするプランでした。今でもこれは結構思い切ったプランでなかなか思いつくものではないかと思います。

塔状の建物となることを前提に軒の出ない黒い板壁のボリュームをカットしてカットした部分をポーチやガラスとしました。構造は木造が基本ですが3台駐車できる接道部分は鉄筋コンクリート造、その上部の斜めにカットした木製カーテンウォールの長いスパンの部分には窓上下に鉄骨を使用しています。

玄関となる2階ポーチでは道路から建物を貫通して海の風景を切り取りました。ポーチの左側に外壁の杉材と同材で面を揃えてつくった玄関ドアを設けています。当初のデザインではこの開口の向こう側に外部階段を設けて1階のテラスの下りれるようにしてあったのですが新築時には予算の都合上断念、しかし数年後にその原案が追加工事として復活することになります。

玄関のある2階には夫婦の寝室とトイレのみ。3階の大開口との対比で2階は開口部を抑えて、眺望の落差を演出する意図もあります。

階段を上って振り返った景色。

斜め壁のため居間の一部に三角形の部分が生じるのですがそこは床を30センチほど下げてグランドピアノを置くスペースとしました。高さ制限もあって3階の天井はそんなに高く取れていませんが、床が下がっていることでピアノスペースの天井高さの確保と、ピアノが空間を圧迫しないように配慮したものです。眺望を重視するための窓は床から天井までの高さのハメ殺し窓が基本で、下手に開閉する窓を設けるより強風には強く、軒が出ていないためガラスがあまり汚れず掃除の手間も少ないそうです。

3階にはもちろん眺望を楽しむためのテラスと浴室も設けています。

浴室は在来工法によるもの。コーナーサッシより富士山をきれいに望めます。

普段使用しない1階には子供の家族のための畳間と、天井が吹き抜けた洋室の2つの客間を設けています。

その後幸いに目の前に増築された病院は眺望に影響のない高さにとどまりました。これだけ海が思い切り見える眺望の家もめったに ないですが、毎日、毎時間、海の表情が刻々と変わっていく様子を建て主さんは大変楽しまれているそうです。