多角形平面の店舗併用3階建て住宅「ロースターの家」

ロースターの家設計解説2021/12/17

2020年の年末に完成した「ロースターの家」。1階にコーヒーの焙煎と販売、イートインを行う店舗を設けた木造3階建ての店舗併用住宅です。2~3階で御夫婦2人が暮らすという構成は私が住んでいる自宅兼アトリエ(葉山のアトリエ)と同じ構成で、お店を運営するのは御主人お一人ということで店舗部分と住宅部分は別々に玄関を設けて公私を分けて生活できるようにしています。

敷地は葉山の海側の住宅街の中のちょっと奥まった私道の突き当りにあり、ほんの少し変形した長方形の敷地で突き当たり道路の幅でのみ接道しています。敷地面積は105平米程度、建蔽率60%容積率180%の地域で木造3階建ても建設可能な地域です。2階建てでも必要な床面積は確保できそうだったのですが、2階建てだと1階に住宅の必要諸室の一部と店舗が混在してしまって間取りが難しくなること、自家用と来客用の2台分の駐車スペースを取りやすくなるという理由で3階建てを選択しました。

建て主さんからの要望の一つにお店へのアプローチは弧を描くように長くしたい(例:箱根のとらや工房)というのがあり、また四角い建物だと建物のファサードが道路に対してそっぽを向いてしまうような配置になること、建て込んだ住宅街の中である程度のお店としてのランドマーク性を持たせたいという理由のために多角柱の形状の建物としました。周辺は2階建ての建物が多い中での3階建てですが、階高を抑えてあまりそびえたつような高い建物とはせず(最高高さ9mの住民協定あり)、四角ではなく多角形の平面として角を落とすことで周辺への圧迫感はかなり軽減されていると思います。

平面形の検討に当たっては正方形の4隅を45度カットした八角形をまず検討し、必要な部屋を納めるために奥の角だけはカットしない7角形の形状となっています。外壁はコスト面の優位性もあって真っ黒な焼杉板張としましたが特徴的な建物の輪郭が強調されていると思います。

敷地の西側は2台分の駐車スペース兼、庭のスペースとして1階の店舗はその庭に対して全面掃き出し窓でオープンに開いた形としています。木製建具は片引き窓ですが天気の良い日は庭までお店の一部として開放的に使えそうです。

お店の入り口とは対角にある反対側にはひっそりと住宅用の玄関を設けていますが、こちらも玄関前のちょっとした三角形のスペースを緑化して玄関らしく設えています。

店舗内は作業用の長いカウンターの背後に2列の厨房設備と商品陳列棚、その奥に焙煎室(消臭機も設置)をガラス越し焙煎機が見えるように設けていて、営業していない時間には焙煎室の折戸をオープンに開いて厨房と一体的に広く使えるようにしています。大黒柱は鉄骨の丸柱としました。

カウンターの腰壁はシナ合板目透かし張に染色したもの、L型のカウンター材はナラの剥ぎ合わせ材です。

7角形の平面なので斜めにカットした部分を有効に使うのに一工夫必要ですが、1階はこの部分にトイレと手洗いコーナーを目立たないように設置しています。ちょっとした備品の収納や、チラシなど置ける情報スペースもこの裏に隠れています。

焙煎室は奥の住宅用玄関と鍵付きの扉一枚でつながっています。2つの大きな給気口は焙煎機のためのもの。

2階にはLDKとパントリーと畳コーナーを設置。床はカラマツフローリング、壁・天井は紙クロス仕上げ。2階にバルコニーは設けていませんが、建物コーナー部分に障子付の横長サッシを設けて明るさを確保しています。丸柱の奥がダイニングスペースで、左側がワークスペース。

キッチンはシステムキッチンでワークコーナーの裏に2畳分のパントリー。冷蔵庫はキッチンと45度角度を振ったスペースに納まるようにしています。キッチンは対面カウンター部分を将来工事で設置する想定です。

正面の壁み奥に変形した畳スペース。右のガラス入り引き込み戸の戸当たりは8角形断面の化粧柱。

畳コーナーは2畳ちょっとの広さですが、将来大きな仏壇をここに置く想定もされています。道路側から目立つこの部分のサッシは木製サッシの縦すべり出し窓。

斜めにカットした部分を上手く階段室として使っていますが、変形しているがゆえにちょっと椅子でも置いて景色をみながらくつろげそうなコーナーも生まれました。

3階の主寝室。複雑な形状の小屋組をそのまま見せています。南側には1間(1.8m)奥行きのあるインナーテラス。

変形した小部屋はウォークインクローゼットとして使用。

浴室も主寝室前のテラスに面して大きめの窓を設けています。残念ながら海は見えない高さですが、あまりプライバシーを気にせず入浴が出来そうな場所です。

この計画は変形平面をあえて採用したことでかなり難易度の高い(設計的にも施工的にも)プランニングとなりましたが、単純な四角形のプランにはない流れるような動線の平面と個性的な外観が得られたのではないかと思います。