松濤美術館と渋谷周辺

建築2022/2/1

渋谷の松濤美術館(白井晟一設計・1981年開館)が展示物を撤去した”建築そのもの”の展示をやるということを知り、正月休みにでも行かねばと思っていたところずるずると展示最終週に駆け込み予約して行って来た。確か世田谷美術館でも展示物を外した建築の展示というのを割と最近やったはずで、今後このような展覧会が増えるかもしれない。確かに私のような建築関係者、建築好きはほとんど展示物などお構いなしに建築だけ見に出かけたりしているし、建築を見るための旅行に出かけることが当たり前となっている。

予約制の人数限定だったのだけれど結構な人が入っていて、期待したようにゆっくりと室内の写真が撮れるような感じではなかったが。。

松濤美術館は建築学生時代に一度は見ているはずの建築だけれどほとんど記憶がなくて、こんなに大きかったかな?と新鮮な印象で観ることができた。

今回は普段は入れない部屋も見れたり設計当初想定された順路で巡ることもでき、非常によくできた空間構成であることが再認識できた。住宅街の中で地下2階まで掘り下げてプライバシーを確保しつつ採光を確保し内外の吹き抜けで上下につながる空間、直線がほぼない平面形、中心軸を巡るように回遊する動線、独特の素材使いとディテール、白井晟一氏でなければ設計できない名作であることに間違いはない。

松濤美術館と目と鼻の先にある、内藤廣氏のデビュー作でこちらも築40年近いギャラリーTOM。松濤美術館にあれだけ人がいたのでこちらにも相当人が流れてくるかと思ったら、誰もいなくて逆にびっくり。個人的にはこちらの方が建築として断然好きなのだが。。

改めて見るとこんな屋根は他に見たことがないし、納まりきらず外壁からはみ出している突起の部分とかがなんとも魅力的である。

マンツーマンで学芸員の方にこの建築の詳しい説明を改めて伺うことができたが非常に面白い。屋根はやはり雨漏りがあるそうで自然光が降り注いでいたという天窓のスリット部分には断熱材のようなものがはめ込まれている。

2~3階がギャラリーで、1階は小劇場として隆盛していた時期があったそう(今は倉庫)。外階段と外壁の普通は作らないような変な隙間に「tom」というロゴを入れるあたりがなんとも素敵である。

久々に渋谷までやってきたのだから(コロナ以降、東京に出ることもめったにない)、そのまま渋谷周辺の建築散歩をすべく駒場の東大構内を突っ切って富ヶ谷あたりを散策。建築家が設計したような家ばかり建っている超高級住宅街であるが、葉山のような緑がある環境に慣れてしまっているせいか自分はもうこういうところには住めないだろうなと感じてしまった。

高松伸氏設計のアーステクチャー。まさにバブル期に建った地下4階建ての家。地上に見えているのは採光用のハイサイドライトなので地上0階+地下4階建てということになろうか。。数年前に5億で売りに出されて今は再び11億で売り出されているという噂である。驚くのは30年前の建築であるに関わらず、外観が新築のようにピカピカに輝いているのである。考えてみれば地上に露出してある部分が黒御影石とアルミとガラスだけであとは全て地下なので、実は経年変化しない超高耐久性と、断熱性をもった非常に先進的な建築と言えるかもしれない。写真を見る限りでは内部も地下4階まで吹き抜けていてとても明るそうである。また地下部分は建蔽率の制約を受けないで地価の高い土地の敷地面積を最大に利用できるという利点もあるのであろう。

最後に見た篠原一男氏設計の「上原通りの住宅」。建物は経年変化していってもこの建築の鮮烈さは失われないと感じた。